3.どの体操を行えばよいのか?
動かしにくいところにピントを集めるという方法がわかったら、次は「どこから体操を始めたらいいのか?」ということになります。ここでは、自分に合った体操の選び方を紹介しましょう。
まずは気になるところから
体操をするといっても、いったいどこから始めればよいのでしょうか?
治療法の中には背骨をまっすぐにする、骨盤を左右そろえるなどのように、見た目でわかる目標へ近づけるよう治療していくものもあり、私もそれらを参考にして治療をしています。けれども、一般の方が自分で歪んでいるところを見つけて体操をするのはけっこう大変なことです。もちろん雑誌などでよく紹介されるように、肩の高さを見るとか、あお向けに寝た時のつま先の開き具合を見るという分かりやすい目安もありますが、それらが果たして症状と直接関係しているのかどうかも分かりません。
そこでおすすめするのは、症状を感じているところからスタートして、症状が変化するところを探しながら順に体操を行っていくという方法です。このような話になると「症状を中心に考えるのは、対症療法で本質的な治療ではない」という意見が出てきて、「本質的・根本的なところを良くしないと、症状の繰り返しになるから、結局はなかなか良くならない」という話になっていきがちです。
ところが何が本質かということになるのかというと、各治療法ごとに考え方が異なっていて統一されたものはありません。きっと、ひとつの治療法の考えだけが全て正しいということはないでしょうし、あるいは全て間違っているということもないはずです。治療家同士は、様々な主張をして磨き合えばよいと思うのですが、その間いろいろな話に振り回されて迷惑するのは、症状に悩んでいる方々でしょう。「話を聞くとみんなもっともらしく聞こえるけど、自分にはどの治療法が良いのかわからない」という思いをされた方も、中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
その点、症状を感じているところから始めていくのは、本人にもわかりやすいというメリットがあります。自分で体操を行う場合は、継続するためにもわかりやすいということが大切です。最初に症状のあるところを刺激する体操を行い、いくらかでも楽になっているかどうかを確認して、ひとまずその体操を基本にする。次に関係しているところの体操を行って、また症状の変化をみるということを積み重ねて、一歩づつ回復に向けて歩んで行けばよいわけです。
一つ一つ手探りで探していくのは地味なようですが、あちこちにある疲れを少しずつ取って、症状が出ているところの負担を減らしていく確かな方法といえます。
次に体操をすればよいのはどこ?
「症状と原因は別のところにある」とよく言われるように、必ずしも「コリを感じるところ」=「コッたところ」ではありません。コリによる痛み、しびれの原因は1つだけではなく、いくつかの部位にまたがっていることがほとんどです。様々なところに疲れがたまって無理が利かなくなった結果、そのしわ寄せを受けた組織の悲鳴が症状という形で現れているわけです。
では、症状を感じているところからスタートさせた後、次にどこを体操すればよいのでしょうか?決まった公式のようなものは特にありませんが、次の2つのポイントを参考に進めてみてください。
《 次の体操を選ぶ手がかり 》
1.反対の関係
これは反対の働きをする筋肉の関係で、拮抗(きっこう)筋と呼ばれます。曲げる筋肉と伸ばす筋肉の関係ですね。場所によって、反対の働きというのがわかりにくいようなら、骨をまたいだ反対側の筋肉と思ってください。肩の上がつらいなら、脇の下のコリを探すといった具合です。
2.となり同士の関係
同じ面のとなり同士についている筋肉で、協力筋と呼ばれます。協力するので、働きも似た作用のものが多いです。
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まず、おすすめなのは「反対の関係」から始めることです。これは例えば、肩甲骨の間がコる場合、コッたところの体操をまず行い、その次には胸の体操を行うという方法です(例1)。単純なようですが、太ももの表の筋肉(大腿四頭筋)のトラブルで膝に痛む場合でも、太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)の緊張が取れないとなかなか改善しません。他にも、腹筋の緊張が腰痛を招いている、胸の筋肉の緊張が肩こりを悪化させているということもあります。
図1・反対の関係で体操する順序の一例 |
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このように、反対の作用をする筋肉の体操を行うのは、順序としてもわかりやすく、効果も期待しやすいのです。また、症状の出ているところを体操するのは気分的に抵抗がある場合、この反対の関係にあるところから始めると良いでしょう。
次に、となり同士の関係に移ります。例えば、腰痛だったらお尻へ、さらに太ももへという具合に、となりへとなりへと移っていくのです。となりの体操を行ったら、その場所の反対の関係も見ていきます。腰痛では腰の体操を行った後でおなかに移り、次に、となりの関係にあたるお尻の体操をしてから、股関節の前に移っていくという具合です(例2)。
図2・となり同士と反対の関係を組み合わせた順序の一例 |
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ここで悩んでしまうのが、腰の場合、次に向かうのは背中とお尻どちらに進めばよいのか?ということでしょう。このような時は、背中とお尻両方の体操を行ってみて、よりスジがつっぱる方から行ってみて下さい。仮に、お尻の方がよりつっぱったから、そちらを先に体操を行ってみたけれど特に変化がないという時は、背中のほうのコリを探してみてください。でもこの場合、お尻の体操しても変わらなかったから無駄だったなんて思わないで下さいね。今は影響ないように思っても、隠れた緊張を取っておくのは、後々起こるかもしれない症状を予防していることになるので、決して無駄にはなりません。
このように、「反対の関係」と「となり同士の関係」を組み合わせて進めていくわけですが、大切なことは体操をした時に、つっぱり感などの手ごたえを感じることで、それを感じなければ次に移ってかまいません。全部きっちり行っていたら大変です。こうしていくうちに症状がなくなったようなら、必要な範囲の体操を行えばいいですし、興味が出てきて他もやっておきたいという方は、しらみつぶしに行ってみて「へぇ〜、こんなところがこんなに硬くなっていたんだ」という具合に、楽しみながら続けていただければと思います。
東洋医学のバイブルといわれる「黄帝内経(こうていだいけい)」にも、「つらい時には症状を抑える治療を行い、落ち着いたらその本となるところを治療する」という意味のくだりがあります。体操も、つらいところを落ち着ける方法をまず身に付け、じょじょに関係しているところを自分で見つけていく、そんな自分探しの旅(ちょっと大げさですが)を楽しんで下さい。
独りで不安な時は
自分で体操をする場所の見つけ方を紹介しましたが、「自分は素人だから、変に体操をして余計おかしくなったら困る」と考える方もいらっしゃるでしょう。基本的には「2.体操のポイントあれこれ」で紹介した、体操をして良い時・悪い時などを参考に進めればいいのですが、本当に大丈夫かどうか、症状に悩まされている人ほど不安になってしまうと思います。
不安な気持ちを抱えたまま体操を行って、今までとは違うところにコリを感じた場合、本当は良い反応かも知れないのにマイナスに捉えてしまうと、せっかく回復への一歩を踏み出しても、なかなか先へは進めなくなってしまいます。そのような時は無理をせず、治療や体操の専門家に「こんな体操をしているのだけれど、続けても大丈夫だろうか」とアドバイスを求めてみてください。
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1.「コリとり体操」って何? 2.体操のポイント 3.どの体操を行えばよいのか? 4.体操を自分のものにするために
5.体操のポイントチェック 6.≪首・肩≫ 7. ≪ 上腕・前腕 ≫ 8.≪背中・腰・おなか・おしり≫ 9.≪太もも・足≫
10.コリとり体操に込めた願い 「技のコツ」「まみむメモ」メニュー
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